運転資金には、「どの程度の金額が妥当なのか?」や「どの程度の割合がよいのか?」を知る指標があります。
これが「経常運転資金」や「経常収支比率」といわれるものです。
これらを知ることにより、必要かつ適正な運転資金の額を知ることができるため、資金繰りや融資の申し込みに役立ちます。
ここでは、この「経常運転資金」や「経常収支比率」についてご説明します。
「経常運転資金」とは?
基本的な経常運転資金の計算方法
事業をしていくうえで「どの程度の運転資金が必要になるのか?」、「適正な運転資金の金額はどの程度なのか?」ということが気になると思いますが、これを計算する方法があります。
このような通常の営業で必要となる運転資金のことを「経常運転資金」(または所要運転資金)といいます。
経常運転資金の算定式
「売掛金」+「受取手形」+「在庫」-「買掛金」-「支払手形」
これを計算することにより、その企業には営業をする上でどの程度の資金が必要で、現在どの程度不足しているのかということを知ることができます。
また、これを使うことになり、融資の申込みの妥当な金額を知る目安とすることができます。
「売掛金等」が多いと?
ではなぜ、これにより必要な運転資金がわかるかといえば、まず、売掛金について考えてみます。
売掛金とは、商品やサービスを販売してその代金の支払いを受ける権利のことをいいますが、実際には約束した期限がくるまで現金が入金されることはありません。
また、同じく、受取手形についても、その支払期限が到来するまでは、現金として入金されません。
さらに、在庫は、商品としては存在するものの、販売がされるまで倉庫などに置かれているものであるため、これについても販売し、代金が回収されるまでは現金化されません。
つまり、「売掛金・受取手形・在庫」の3つについては、将来的には売り上げとなるものの、今の時点では現金化できないものとなります。
そのためこれらが多ければ多いほど、先に支払うだけとなり、会社の現金はなくなって資金繰りは厳しいものとなります。
「買掛金等」が多いと?
一方で、買掛金とは、買ったけれど支払いを待ってもらっているもの、つまりは「負債」となります。
しかし、これは約束により支払日が到来するまでは支払わなくてよいわけですので、その分の現金は会社に残ることになります。
このように、支払いを待ってもらっているお金が多ければ多いほど、その分、会社に残る現金は多くなるということになります。
「経常運転資金」の中身とは?
以上のことから、両者の差し引きをすれば、経常運転資金つまり、常に会社に必要な運転資金がどの程度なのかを知ることができます。
たとえば、Aという会社があって、売掛金が1,000万円、受取手形が1,000万円、在庫が500万円、そして買掛金が2,000万円あるとします。この場合は
「売掛金1,000万円+受取手形1,000万円+在庫が500万円-買掛金2,000万円」=500万円
となることから、この会社は事業していくうえで慢性的に500万円の現金が必要ということになります。
金融機関では、運転資金の申し込みがあった場合、必ずこの経常運転資金がどの程度なのかを計算し、その上で申込額が妥当かどうかの審査をします。
つまり、申込額がこの金額のレベルに見合っているのかどうかを判断しているわけです。
したがって、企業の経営者が融資の申し込みをする場合には、ざっくりと3ケ月分の運転資金がほしいとかの申込み方ではなく、この経常運転資金がどの程度なのかということを把握した上で申し込んだ方が、金融機関の理解も得やすいということになります。
「経常運転資金」の計算の例
例えば、あなたがある機械の販売をするために800万円の現金の中から500万円を使って機械を5台(@100万円)仕入れたとします。この状態を仕分けで表すと次の通りとなります。
➀【在庫の発生】
現 金 800万円 → 300万円
機械(在庫) 500万円 ※5台
この時点での運転資金を先の式に当てはめてみると次のようになります。
「売掛金」(0)+「受取手形」(0)+「在庫」(500)-「買掛金」(0)-「支払手形」(0)
つまり、運転資金は在庫の「500万円」だけということになります。
➁【在庫の減少、売掛金の発生】
次に、機械の2台が売れましたが、代金の支払いは来月の給与でということになったとします。なので、この200万円は売掛金ということになります。
現金 300万円→300万円
機械(在庫) 500万円→300万円 ※3台
売掛金 200万円
この時点での運転資金を先の式に当てはめてみると次のようになります。
「売掛金」(200)+「受取手形」(0)+「在庫」(300)-「買掛金」(0)-「支払手形」(0)
この場合も、運転資金は在庫と売掛金を合計した「500万円」ということになります。
③【仕入れ】
次に、売れた分の機械につき1台の在庫の補充をしたとします。しかし、手元の現金が不安なためこれについては来月末の支払いとしてもらうことにしました。この代金の支払いは買掛金となります。
現金 300万円→300万円
機械(在庫) 300万円→400万円 ※4台
売掛金 100万円→100万円
買掛金 100万円
この時点での運転資金を先の式に当てはめてみると次のようになります。
「売掛金」(100)+「受取手形」(0)+「在庫」(400)-「買掛金」(100)-「支払手形」(0)
この場合、運転資金は在庫と売掛金の合計から買掛金を引いた「400万円」ということになります。
ここで注意してもらいたいのが➁と③の場合の金額の比較です。
➁の時点での運転資金は500万円となっていますが、③の時点では400万円となっています。
ここでは追加で仕入れた車の100万円分の支払いが、買掛金となったためその分の運転資金が減っています。
これは、100万円分だけ資金繰りがよくなっていることを意味します。
しかし、その買掛金の支払いが来月の1日で、売掛金の入金が20日だったとしたらどうでしょう?
1日には100万円を支払わなくてはなりませんから、現金が100万円減ってしまうことになります。
このように経常運転資金はある期間のサイクルの中でどれだけの営業資金が必要なのかを知ることはできますが、現金が減るか増えるかは支払いや入金のタイミングで変わることに注意が必要です。
「経常収支比率」とは?
経常運転資金の考えと似たものに「経常収支比率」というものがあります。
これは一定期間における、事業活動に要する収支がどの程度あったかを比較することにより、当面の支払いがまかなえているかどうかを見るものです。
たとえば、この比率が200%ならば、現金収入は支出の2倍あったことを意味します。
この数値は経常運転資金と同様に、金融機関の人間が必ず計算する数字であり、この収支が100%を下回る場合には資金繰りが厳しくなっていることを表します。
「経常収支比率」の算定方法
経常収支比率=経常収入÷経常支出×100%
【経常収入】
売上高+営業外収入-売上債権(売掛金+割引手形+裏書手形譲渡手形)の純増額+前受金-前受収益の純増額-未収入金・未収収益の純増額)
【経常支出】
売上原価+販売費及び一般管理費+営業外費用-買入債務(買掛金+支払手形)の純増額+棚卸資産の純増額+前渡金・前払費用の純増額-未払金・未払費用の純増額-減価償却実施額-引当金の純増額
ここでいう経常収入というのは、簡単に言えば、企業の経常活動による現金収入を計算したものであり、経常支出というのは、現金支出を計算したものとなります。
なお、この経常収入と経常支出は、企業の経常活動による収支を計算したものなので、借入金による収入や返済の支出などはここに含まれません。
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