皆さんは、金融機関が「この企業に対してはあと1,000万円までなら融資する」とか、「この企業に対してはこれ以上の融資をしない」ということをどうやって決めているかをご存知でしょうか?
現在、企業が融資を受けられるかどうかは、ほぼ「債務者区分」や「銀行格付」といった独自のランクにより決定されています。
そのため、銀行から融資を受けるのであれば、この「債務者区分」や「銀行格付」を一定以上にあげることが必須となります。
ここでは「債務者区分」や「銀行格付」がどういうものかについて、ご説明します。
「債務者区分」と「銀行格付」
「債務者区分」とは
融資を受けているすべての企業は、金融検査マニュアルに定める基準により、借入人の財務の内容に応じたランキングが決められています。
これを「債務者区分」といいます。
なお、一般的に融資が出るのは「要注意先」までとされています。
債務者区分は、次のように分類されています。
債務者区分 | 区分の内容 | 銀行格付け(例) |
普通先 | 業績が良好であり、財務内容にも特段の問題がない | a1・a2・a3・b1 |
要注意先 | 業績低調、延滞など、今後の管理に注意を要する | b2・b3・b4・c1 |
要管理先 | 融資支払いについてリスケジュールをしている | ― |
破綻懸念先 | 現在は経営破綻の状況にないが、今後、破綻が懸念される | ― |
実質破綻先 | 法的・形式的な経営破綻の事実はないが、実質的に破綻状態 | ― |
「銀行格付」について
一方、各金融機関ではこの「債務者区分」にもとづき、それぞれ独自で決めた判定方法により、対象企業の業績等を点数化し、さらに細かくランク付けします。
これを「銀行格付け」といいます。
「定量的分析」と「定正的分析」の違い
銀行格付けは、「定量的分析」と「定性的分析」の結果により、決定されます。
「定量的分析」とは、企業の決算書にもとづき財務分析(安全性・成長性・収益性など)を行い、その企業の財務内容を対象として計算した配点となります。
これに対して、「定性的分析」とは、「定量的分析」で算出できない項目(業歴、経営者の能力、経営方針、資産、市場動向など)を対象として計算した配点となります。
最終的にはこの2つの結果を加味して銀行格付けが決定されますが、「定量的分析」と「定性的分析」ではそもそもの配点に大きな差があるため(およそ7:3~9:1程度)、基本的には定性的項目の評価でほぼ銀行格付けの内容が決まってしまいます。
銀行格付けの決定方法
銀行格付けについては、通常、以下のような流れに従って行われています。
【 債務者区分の決定 】
金融検査マニュアルの基準により、右のいずれかに決定 | 普通先、要注意先、要管理先、破綻懸念先、実質破綻先、破綻先 |
【 銀行格付の決定 】
定量的分析 | 財務諸表の数値を分析 | 全体での比率 80~90% |
定性的分析 | 業歴、能力、資産等を考慮 | 全体での比率 20~10% |
最終的な格付けの決定
「定量的&定性的項目」の中身について
定性分析および定量分析は、それぞれ次のような項目により決定されます。
対 象 項 目 | |||
定量的分析 | 経常利益増加率 | 自己資本額 | 売上高 |
売上高経常利益率 | 自己資本比率 | ギアリング比率など | |
定性的分析 | 業 暦 | 経営者、経営方針 | 資産力など |
なぜ、債務者区分を知る必要があるのか?
以上のように、「債務者区分」や「銀行格付」は、今後の企業の生死を左右しかねない重要なものとなっています。
そのため、自分の会社の格付けがどの程度かを知っておかないと、いつまでたっても満足の行く融資を受けられないばかりでなく、逆にある日、突然、資金の回収の対象となってしまわないとも限りません。
しかし、自社の「債務者区分」や「銀行格付」の位置づけを知ることにより、次のようなメリットが得られます。
「債務者区分」や「銀行格付」を知るメリット
② 資金調達や経営方針の計画が立てやすくなる。
③ 事前に効果的な対策をすることにより、回収の対象とならずに済む。
というメリットがあります。
詳細な評価については、それなりに専門的な知識が必要となりますが、とりあえずは以下の「債務者区分判定チャート」を参照いただければ、およその区分をご自分でも知ることができると思います。
参 考 「 借入れ診断チャート」でわかる!あなたの融資の可能性と改善策。
銀行格付け改善法
改善攻略のカギ
企業が銀行からの評価を上げていくためには、まずは効果の出やすい「銀行格付け」➡「債務者区分」という順番で、改善していくことがポイントとなります。
しかし、その際に注目していただきたいのが、
「 銀行格付けの判定では、各項目の配点は一律ではない 」
ということです。
前の項でもご説明しましたが、銀行格付けの判定をする際には、経常利益増加率や自己資本額など多くの項目が対象となりますが、これらの各項目の配点は一律ではありません。
つまり、すべての項目について、まんべんなく努力するよりも、これらの重点項目について集中して対策した方が効率的であるということになります。
「銀行格付」の向上に効果が高いとされるのは、以下の項目です。
銀行格付の改善のための重点項目と算定方法
◆ 自己資本比率 ◆ ギアリング比率 ◆ 自己資本額 ◆ 債務償還年数 ◆ キャッシュフロー ◆ I.C.R ( インタレストカバレッジレシオ ) |
各項目についての算出方法は、次のようになります。
指標の算定式
自己資本比率 | (資本の部合計 / 負債・資本の部合計) ✖ 100% | 大ほど良 | |
ギアリング比率 | (短期、長期借入金 / 資本の部合計) ✖ 100% | 小ほど良 | |
自己資本額 | 自己資本/資産(他人資本+自己資本) | 大ほど良 | |
債務償還年数 | { 短期、長期借入金 /(当期減価償却額+営業利益)} ✖ 100% | 小ほど良 | |
キャッシュフロー | 税引後利益 ✚ 当期減価償却額 | 大ほど良 | |
I.C.R | { (営業利益+受取利息、配当金) / (支払利息、割引料)} | 大ほど良 |
症状別 債務者区分改善の対策法
自己資本過小症候群
自己資本が少ないことにより、金融機関の評価が低くなっているパターンです。
主に対策すべきは「自己資本比率」、「自己資本額」の改善ですが、すぐに「自己資本額」を増やすことは困難なので、当面は「自己資本比率」の改善を重点的に行なうのが効果的です。
「自己資本比率」の改善は、資本金を増やすことの他に借入額を減らすことでも同じ効果が得られますので、手をつけやすいほうから行なえばよいでしょう。
利益過少症候群
経常的に会社の利益が少ないことにより、評価が低くなっているパターンです。
主に対策すべきは、「債務償還年数」と「キャッシュフロー」の改善ですが、利益を増やすことにより、他の項目についてもかなりの改善が期待できます。
利益捻出の方法はいくつかありますが、手っ取り早いのは「役員報酬と経費の削減」、それと「仕入れや原価」の見直しなどです。
債務過大症候群
会社の規模に比較して債務が過大となっているため、評価が低くなってしまっているパターンです。
主に「債務償還年数」・「ギアリング比率」・「インタレストカバレッジレシオ」の改善が効果的です。
具体的な対策としては、まず何よりも「債務の額」と「利息の支払い」を減らすことが重要となりますが、そのためにはいかの対策が効果的となります。
◆ 資産を売却して債務の返済に充てる ◆ 借換えにより金利の安い金融機関へ乗り換える ◆ 複数の短期の借入を長期の貸付へ一本化する |
経営不安定症候群
中長期の経営のビジョンがないために「経営が安定しない」他、金融機関の信用が十分に得られず評価が上がっていないパターンです。
この場合には数値の改善よりも、まずは金融機関に向けた中長期の経営計画を作ることで評価が大きく改善する可能性があります。を強くお勧めします。
また、「経営革新計画」や公的な認定などを取得することにより、金融機関の信用が増すだけでなく、経営にもプラスとなりますので財務体質の改善にも役立ちます。
金融検査マニュアルの事例による経営改善のケース
金融検査マニュアルでは、中小企業を対象とした経営改善の事例を数多く公表しています。
ここではその中から、すぐに皆さんの経営に役立ちそうな事例をご紹介します。
事例 家族で経営している家電業者のケース
【 事業概況 】
◆ 家電販売業であるA社は、これまで家族経営により、主に近隣地区の顧客を対象に商
売を行ってきた。しかし、大型量販店の進出により、売上は徐々に減少し、前期では
ピーク時の 2/3 の水準となっている。
◆ 最近は2 期連続の赤字を計上し、赤字分については個人の預金から補填しているもの
の今期に入ってから2度ほど返済が遅れている。また、2年前に保証協会に対し、元
金の一部減額を申請し(リスケジュール中)これを了承されている。
◆ 前期年商は8,000万円、借入れ総額は約6,000万円。
経営者のB氏(65才)には息子(30才)があるが現在、サラリーマンとなっている。
【現在の状況】
家電販売業であるA社は、現在、2 期連続の赤字を計上しており、具体的な業績向上の材料も見当たらないことから要注意先の下位区分である「管理先」に区分されている。しかし、このままの状況で、さらに今期も赤字を計上するようならば、もう一ランク下の「破綻懸念先」へのランクダウンの可能性も金融機関から指摘されている。
【対策上の問題点】
現在の問題点としては、以下のものがランクを低下させる原因となってている。
〇 2 期連続の赤字を計上している。
〇 リスケジュールを行っている。
〇 売上げの回復が見込めない。
【 対策のポイント 】
本事例では、「過去にリスケジュールを行っている」こと、「2 期連続の赤字を出している」
ことの2点が区分を引き下げている最大の要因となっている。
改善のための具体的な対策
この会社が現状維持および近い将来的なランクアップをするために、最低限必要な対策としては以下ののものが考えられます。
① 経営改善計画の作成
A社が今後、格付けのupをするためには経営改善計画を作成し、金融機関の支援を得ることが最も効果的な手段となります。
しかし、この計画はただ作るだけではなく、最低限でも計画終了時に80%程度は達成できるものでなければなりません。
※ 金融検査マニュアルにおいても、実効的な経営改善計画書を提出し、計画の80%程度を達成できている企業については、格付けダウンをしないように指導している。
② 役員借入金の資本金への充当等
これまでA社では、赤字の補填のために代表者Bが個人資産をつぎこんでおり、これは決算書上では「役員借入金」として計上されています。
金融検査マニュアルでは、このような資金については、会社の資本金と同質のものとみなし、代
表者が返還を要求しないことを条件に、表面上の資本金(登記簿上の資本金)に加算して格付け
算定することができるものとされています。
仮にこのような処理が行われるとすれば、決算書上では資本金が増加し、負債が減少するため格
付け対策上も大きな効果が得られます。
③ 後継者の事業継続の表明
直接の格付け評価には影響が少ないものの、事業が後継者により継続するのかどうかは金融機関
にとっては重要な関心事である。また、金融検査マニュアルにおいても、後継者による事業への
支援が表明されている場合には、債務者区分の判定上これを考慮すべきこととされている。
本事例においては、息子はサラリーマンとなっているが、この息子によるA社への支援が明確に
なるならば、債務者区分対策上は有利になるものと思われます。
まとめ
以上のように経営の改善・再生には、銀行格付けの改善とそのための経営改善計画書の作成が非常に有効となります。
しかし、やみくもに計画を作っても意味がないため、「なにを金融機関が求めているのか?」、「その実現のためには何をすべきか?」をよく考えて行ってください。
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